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紀之に会えず、このバイトをするきっかけになった彼女にも会うこともないまま、2月14日。 バレンタインになってしまった。 今年のバレンタインは、土曜日だけあって午前中から人があふれていた。街行く人々は幸せそうで、駆け込みでチョコレートを買う女性で、売場はにぎわっている。 ぼんやりしている場合ではなかった。 碧ちゃんにごめんね、と言った後、すみませんと声をかけられて私は振り返った。 彼女が、立っていた。 このバイトをはじめるきっかけになったキラキラまぶしいままの彼女。 「このウィスキーボンボンと…」 私の熱い視線を感じたらしく、注文を言いかけて、彼女は顔を上げた。 相変わらず、綺麗でどこか懐かしいその彼女は、私と目が合うと、ひどく動揺した様子で慌てて視線を落としてしまった。 「ウィスキーボンボンとその横のクランチ12個入り下さい」 その動揺ぶりが、気になって私は記憶を引っ掻き回す。
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