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「ごめんね、閉店まで居座って」
「いいえ、またいらして下さいね」
フロアのみんなもカズ君も帰ってしまい、すっかり静まり返ったカウンターで
コートを羽織ろうとした宮原さんに、私が声をかけると、宮原さんは少し困ったような顔をした。
「そうしたいのは山々なんだけど…事務の子が急に辞めちゃって年明けからしばらくバタバタしそうなんだよね」
ため息混じりそうつぶやいて、宮原さんは力なく笑った。
「急に辞めたって…?」
隣にいた紀ちゃんが隣で怪訝な顔で尋ねた。
「事務の子が妊娠してて、本当は年明けから新しい人を入れて、引き継ぎも含めて3月位まで働いてもらう予定だったんだけど、悪阻がひどくて入院することになっちゃってね…」
早口にざっと説明したあと、宮原さんは思いついたように私の顔をのぞき込んだ。
「そうだ、里奈ちゃんの知り合いで、経理とか事務の経験者いたりしないかな?もしいたら、事務所に連絡頂戴」
そう言って、宮原さんが取り出したのは、携帯電話ではなくて、一枚の紙。
名刺だ。
何故か、受け取るのを一瞬躊躇ってしまったとき。
「里奈、あんた簿記も持ってたし経理のバイトもしてなかった?インテリア系の事務所にもいたんだし」
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