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私は声に出して言おうとしたけれど、声が出なかった。
私にも言えなかった事がある。
かわりに、涙が出た。
紀之は、黙ったまま。
ひとしきり泣いた後、ぽたぽた滴り落ちる涙と一緒に、私はやっと呟いた。
「紀之、ごめんね…私、会社辞めちゃった」
少し驚いた顔をした後、紀之は優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間、会社を辞めてから紀之に言えずにいたカッコ悪い私の話を堰を切ったように話しだした。
私が話し終わるまで、紀之は小さく相槌をうちながらただ聞いてくれていた。
話し終わった私に、紀之は一言だけ言った。
「少し離れて居すぎたみたいね」
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