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ビールが運ばれてくるのを待って、西山さんは再び話し始めた。 私の知らない、ユウキ君やカズ君も知らない、大切な人たちを失う前の紀之の話。 「本当、私なんかよりずっと頭が良くて… 高校入ってすぐに両親が事故にあわれたってのは知ってたんですが、本当に女子に騒がれてる雲の上の人で、接点なんて全然ありませんでした。 でも、高2の秋に、たまたま同じ大学の医学部を目指してるって知ってから、よく話すようになったんです」 紀之が…医学部…? 「話してみたら、案外気さくで…両親の事故もあって、体が弱い妹のためにも医者になりたいって…本当に妬けちゃうくらい妹思いでした。 …いや、本気で妬いてたんですよね私。実の妹なのに。あの頃からずっと紀之の事好きだったから」 まだ、紀之が医学部を目指していたと言う意外すぎる過去に動揺しつつ、西山さんがはっきり続けた言葉に、本当に、真っ直ぐな人なんだと思った。 「だから…私、紀子ちゃんを心のどこかで嫌ってたんです」 泡が、消えてしまったビールに、西山さんは口を付けた。 「紀子ちゃん美人だし…まるでお姫様みたいに大切にされてた」 私が一度しか会ったことがない紀子ちゃんにも、西山さんは何度か会っていたんだろう。
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