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「なんで一番辛いときに、一番側にいた私じゃないんだろうって、しばらく泣きましたよ…でも…たぶん、何も知らないから、里奈さんに惹かれたんですよね。両親を亡くしてからは、友達も、学校の先生も、まるでハレモノ扱いで…私だって、無意識に紀之の事そういう風に見てたと思います」 いつの間にか、西山さんのグラスはからになっていた。 「もう一杯、飲んじゃおうかしら。里奈さんは?」 急に話題が変わって、焦った私は首を振り、まだ一口も飲んでいなかったビールを流し込んだ。 少し、ぬるくなったビールは、いっそうほろ苦く、しみていく。 「紀之が、笑った顔、久々にみました」 飲み物を注文し、向き直った西山さんが言った。 その顔を見て、話題が過去に戻ったことに気がつく。 私が来たとき二、三組しか居なかった店内は、少しずつ賑わいはじめていた。
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