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西山さんは言わなかったけれど、紀ちゃんを不幸にしたのは私だ。 自分の身勝手から紀之の手を離してしまった。 絶対に、してはいけないことを、私は紀之にしてしまった。 あの時、思いとどまって紀之から離れたりしなければ…。 家族みたいだからだなんて、そんな理由で別れる必要なんてなかったのに。 あのころの私は、恋が愛にかわったことに気づけなかった。 紀之が怯えているのは、人を愛することじゃなく、愛を失うことでもなく。 一度裏切った私を、信じられないだけなんじゃないか。 それでも、何故か私を側に置いてる。 私が、紀ちゃんの事を、何も知らないから…? それが心地よくて、だから紀子ちゃんの話も黙ってたとしたら。 心地よいはずの私が、すべて知って、一度裏切った紀ちゃんの側にいることを選んだこと…紀ちゃんは戸惑ってるんじゃないだろうか。 あんなに頑なな紀ちゃんの態度も納得がいく。 私は、紀ちゃんを苦しめているだけなのかもしれない。 西山さんは目に溜まった涙が流れる前に、ハンカチで優しく拭って私を見つめた。 真っ直ぐで、強い人だ。 私みたいに、ふらふら揺らぐ事なんてなく、彼女はいつだって、紀之のことを一番に考えてきたに違いない。
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