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気休め程度のファンデーションと、グロスのみで、ほぼ部屋着のジーンズにパーカー姿のまま、私は紀ちゃんとタクシーに揺られていた。
「制服があるから大丈夫」
そう言って、半ば無理矢理、タクシーに押し込められて。
「でも、いきなりこんな格好じゃお店の人とか…」
「大丈夫よ、アタシの店みんないい子ばっかりだからすぐに慣れるわ」
アタシの店。
そういえば、誰を通したわけでもないのに、すでに私の採用が決定していること前提で話が進んでいる。
「紀ちゃんの…店?」
「そう、私がオーナーだけど?」
女になっていた紀ちゃんが、自分の店まで持っている。
貯金も住むところも、仕事さえもなかった情けない私が紀ちゃんと再会したのは、きっと何かの運命だったんだ。
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