4

16/17

9819人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
私は振り返らない。 見送ることもせず、カウンターに座ったまま。 歩き出す前にトシが優しくぽんぽんと頭を撫でてくれた。 そのまま、何も言わずにトシは私から離れていった。 カランカランと店の扉が開く音がして、アゲハさんのありがとうございましたぁ~と言う声が響く。 顔を上げると、カズ君が目の前にロックグラスを置いて、氷を入れずになみなみとウイスキーを注いでくれた。 「別れ話で泣かない良い女、俺好きだよ」 いつの間にか隣に紀ちゃんが座っていた。 「頑張ったじゃない。ご褒美に今日は上がりにしてあげる」 紀ちゃんはそう言って、持っていたグラスを掲げた。 「乾杯」 今更だけど涙がこぼれた。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9819人が本棚に入れています
本棚に追加