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部活も終わり、学校の帰り道。
真っ赤な夕焼けの中を、俺はゆっくりと歩く。
そして、途中の道から商店街に入り、近道をしようと真っ直ぐ歩いていた。
すると。
おもちゃ屋さんを過ぎようとすると、1人の女の子が窓越しにあるぬいぐるみを眺めながら言っている。
「ねぇねぇ、あのくまさん可愛いー!」
茶色く、モコモコとした体。
愛くるしい瞳。
それは可愛いし、勿論子どもなら欲しいと言ってくるだろう。
「……!」
ズキッ……!
「……ち」
……またか。
左傷が痛む。
「どうしたの?春香」
「ママ、春香ね、お誕生日プレゼントあのくまさん欲しいー!」
女の子は、傍に来たお母さんに誕生日プレゼントをねだっている。
お母さんは、そんな女の子をにこやかに見つめて。
「分かった分かった、それが良いのね?とりあえず、今日は帰ろう。パパが帰って来るよ」
「はーい!」
頭を撫で、優しく微笑むお母さん。
買ってくれると分かった女の子は、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。
「……」
そんな二人の姿を見た後、すぐに俺は目の前のぬいぐるみに目をやる。
──ピキッ!
「!!」
ぬいぐるみが目に入った途端に、ふと、よみがえる
あの日の出来事。
『俺がかばう!お前はしゃがんでろ!!』
一気に、それが脳内を駆け巡った。
『──翔……っ、嫌だあぁあぁぁあ!!!』
「……!」
ハッと気付き、目を醒まそうとパンパンと頬を両手で叩く。
「……あーあ」
どうにかして欲しいよ、こんなのもう思い出したくないのに。
「……なんでかなぁ」
笑いながら左手で、ズキリと痛んだ大きな傷痕をなぞる。
「……帰んねぇと。翼が待ってんな」
少し考えた後、俺はまたいつもの様に走って帰った。
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