8年振りの涙

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包帯を取って、鏡で見た時は確かにショックだった。 自分の顔に、こんなにも大きな、三日月型の傷がついてしまったと。 そんな姿を、左目で見る、というのも……。 でも、この左目が見えるという事も奇跡。 神様に、感謝しなきゃいけないよな……。 だから、俺に迷いはなかった。 これから、この傷を持ったまま生きようと。 何を言われようとも。 そこまでは、良かった。 ポジティブに出来てたんだけど……。 「……熊の事は、どうしても思い出して痛む、って訳か」 「あぁ……」 熊に対してだけは、まだ恐れている自分が。 熊が出ている映像、写真、そしてくまのぬいぐるみ。 全てにおいて、拒否反応が出た。 「……やっぱ、それを克服出来なきゃ駄目かなぁ……」 最後の最後に、それを克服出来ない自分が悔しい。 毎日、頑張ってんのによ……。 「翔」 「……ん?」 俊が、俺に声をかける。 その時、もう話しきった俺の顔は……。 「……我慢するなよ」 「……!」 昔の、あの時と同じように。 涙がボロボロ落ちて、崩れて……。 「しゅ……ん……っ」 「……何?」 左手を差し出して、俊にこう言う。 「右手……、貸して」 「……」 何も言わず、俊は右手を出してくれる。 白いその手を、俺は手を震わせながら掴み、ゆっくりと頬に持っていった。 そして、傷痕に優しく当てる……。 「!?」 一瞬、俊は顔をきょどらせて赤らめた。 突然の俺の行動に、やっぱビックリしたのかな。 「……お前ん手、母ちゃんみてぇだ……」 「……そうか?」 そりゃそうだ……。 「……だって、俊っていつも母ちゃんみたいな雰囲気を俺の前で見せてる気がする……」 「雰囲気?」 「……そう」 「見た目だと、無表情だしクールだからどんなヤツか分からないんだけど。仲良くなっていく中で、さりげなく俺に注意する所とか、いつも世話になってたりとかで……」 「……」 「……でも、俊は母ちゃんみたいな優しい、特殊な雰囲気を持っている気がするんだ。だから、落ち着くというか何というか……」 俊は、これまで見てきたのとは違う、優しさを持っている気がするんだ。 .
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