序章『平日の一時』

3/13
前へ
/47ページ
次へ
「堂本さんって彼氏作らないんっすか?」 後輩の男にそんな事を訪ねられたのは仕事の休憩中の事だった。 決して広くはない社用車の軽四の中では四人しか乗っていないにも関わらず、後部座席は窮屈で仕方なかった。 「狭いよ、菊川君」 菊川と呼ばれた男は面食らったような顔をして、ドア付近に体を寄せた。 それでも狭く感じてしまうのは菊川の体型のせいであろう。と言っても菊川は太っている訳ではない。筋肉質で体が大きいだけだ。 「堂本さん、質問に答えて下さいよ」 見かけによらずしつこい男だ。いくら顔がよくてもモテないぞ。 「作らないんじゃなくて、見つからないの」 私は渋々といった口調でそう答えた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加