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部屋に入りドアを閉めるなり、俺は後ろにあるドアに寄りかかった。
『アレ』は一体何だったんだ? まさか、本物じゃあるまいな。いや、この目で二度も見たんだ。『アレ』は確かに長月から生えていた。……だが、そんなことは有り得ない。人には尻尾などないのだから。
じゃあ百歩譲ってあれは見間違いだとしよう。だとしても、俺が長月の――裸体を見てしまったことは嘘ではない。モザイクを要するような部分まで見えはしなかったが、あいつは見られたと思うに違いない。
改めて、この状況に胸が締め付けられるような気持ち悪さを感じる。吐き気さえ覚える。出会って一日も経っていないうちに自分が惚れた人に嫌われるというのは、こんなにも苦しい事なのか。心臓を搾られるような気持ち悪さを感じながら、俺はフラフラと自分の部屋へと戻っていった。いっそ俺をひと思いに殺してくれと頼みたくなる。……いや、そんなのは俺のエゴに過ぎないか。とにかく、長月に謝らなくては。
動悸がおさまった後部屋から出て廊下で待つこと数分。脱衣所から慌てて長月が出てきた。なぜか体にバスタオルを巻いただけで、髪もまだ濡れている。
なんでこんなオープンな格好なんだよ……、と心の中で呟きながら俺は長月の方を見すえた。
長月は俺の姿を認めるとこっちをじっと見つめたまま近づいてきた。
「さ、さっきは、ごめん。ホントに、申し訳ない」
「……あー、もう大丈夫。気にしてないから」
長月は、なぜか慌てた様子もなく、落ち着いている。そして、俺の方を向いて微笑んだ。
「ちょっと祐介君……」
「はい、何でございしょうか長月さん」
なぜか敬語になっていることに言い終わってから気付いた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」
長月は笑みを崩さない。脱衣所では何事もなかったかのように。だが、その優しい言葉は俺に拒否させない力があるように感じた。
「……え? まあ、いいですけど」
「じゃあ、ちょっとあたしの部屋に来てくれるかな?」
長月が俺の前を通り過ぎるとき、微かにため息をついたのを俺は聞き逃さなかった。
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