第一話 居候の秘密

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 長月は言い終わるとため息をついた。さっき廊下でついたものよりも深く。 「……いきなりこんなことを言われて困惑するのは普通の反応だよ祐介君。とにかく、祐介君があたしの正体を見ちゃったことに変わりはないんだし、そうなっちゃえば実際に見せた方がはやいと思から。百聞は一見に如かずとも言うしね。……驚かないでっていうのは無理な注文かもしれないけど、怯えたりはしないでね」 長月がわけのわからないことを口にした途端、金縛りに会ったように体が固まった。それもそのはず。目の前で、長月の体が変化し始め、人でなくなっていったのだから。  頭から二本角が生え、顎の下からも小さな角らしきものが生える。顔は細長くなり、やがてワニの様な形になった。白くとがった牙が何本もその口から覗かせている。首が伸び、腰の後ろからは長く太い尻尾が生え、尻尾の先端部は鏃のようにとがっていた。後頭部あたりから尻尾の先端まであまり軟らかくはないであろうオレンジ色の毛のようなものが生えていた。手足は少し太く、走ったりするのは苦手そうだ。その手足の先端にある肉食獣の持つような鈎爪は、引っ掛かれたらひとたまりもないだろうというほど鋭い。そして、その背中には巨大な翼がある。その翼に羽根はなく、まるでコウモリの翼の様な飛膜が張っていた。  そいつの全身は赤、というか真紅の鱗に覆われており、その光沢から、見ただけで堅いというのがわかった。そいつはこの長月の部屋の天井につきそうなほどのサイズだ。多分、体長は四~五メートルくらいにはなるだろう。  その悠々たる姿はよくゲームやらファンタジーの物語に登場するアレに似ている。そう、まるで――ドラゴンのようだ。 愕然としている俺を、そいつは瞳だけを動かしてこちらをじいっと見つめてきた。薄いスカイブルーの目の中にある、爬虫類独特の縦に細長い真紅の瞳が俺を捉えて離さなかった。 それを見ると、他の事など考えることもできずに後退りした。そいつも俺が後退するに従いその首を俺の方へと近付けてくる。その口から生えた多くの牙が白く光を反射した。 「お、俺は不味いぞ。マジで食べたら後悔する。やめた方がいいから……」  懸命に喉から声を出そうとしても、擦れた声しか出てこない。言った後で、こいつにはまず言葉が通じるのかどうかもわからないということに気付いた。
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