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長月の部屋のドアを軽くノックしてみた。このままドアを開けてあけて起こすのもいいが、それはいくらなんでもマナー違反だろう。それに、昨日のこともあるし、な。
一分ほどノックし続けていたが返事がないので、恐る恐るドアを開けた。
「長月さん、そろそろ起きた方が……ん?」
家具の配置にどこかデジャビュを覚えるんだが……。まあいい、そんなことよりも早く起こさなくては、って――
「うわ、なんだこれ……」
思わず思ったことを口に出してしまった俺の視界に入ったのは、ベッド脇のサイドテーブルの上に散乱している、プラスチックだと思われる破片。床の上には目覚まし時計が転がっているのだが、その文字盤には大きな穴が穿たれている。穴は綺麗に貫通しており、中身の機械が見える。
どうやったらこんな穴ができるんだろう。……じゃあ俺の目覚ましで実験してみるか。
急いで自分の部屋から目覚まし時計を持ってきて、時間を一分後にセットする。そしてそれをサイドテーブルの上に置いた。
そして俺は部屋から出て、ドアを完全には閉じきらずにその僅かな隙間から部屋の中を覗きこんだ。
長月のと同じ、味気ない電子音が部屋の中に響く。
「…………うーん、もう、しつこいなあ……。さっき止めたような気がしたんだけどなー……」
長月はベッドの中でもぞもぞしながら言う。すると、長月が被っている布団の中から真っ赤な尻尾らしきものが生え、その先端の鏃状の部分で俺の目覚まし時計を突き刺した。
鈍い破砕音と共にプラスチックの破片が飛び散る。文字盤にぽっかり穴があいた(元)目覚まし時計は床に落ち、それを破壊した凶器である紅い尻尾はその仕事をこなすとへたりと床に寝そべるように力が抜けていた。
あー、俺の目覚ましが壊れた。また新しいのを買わないと。
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