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ふと周りを見渡すと、女子の姿が見えない。確かに、この学校では理系クラスにくる女子の数というのは男子に比べると少ないが、それでも一クラスあたり最低でも数人はいてもおかしくはないのだ。だが、なぜこのクラスは一人もいないのだ。これじゃあまるで男子校じゃないか。
……はあ。なんかやる気が出ない。
「祐介、なんでそんなに落ち込んでいるんだ?」
「ん? ああ、藤堂か。女子が一人もいないからさ。なんかむさ苦しいクラスだな、って思っていただけだ」
「ははは、大丈夫だよ。なんか噂によると、うちのクラスに一人だけ女子が来るらしいから。しかも転校生だぜ? もしかしたらすごい可愛いかもしれないじゃないか」
「ああ、そりゃ良かった。クラスに一人でも華がありゃ雰囲気は変わるからな」
落ち着いて考えてみると、大丈夫なのだろうか。この男の群れに女子が一人混じるなんて、飢えた狼の群れの中に一匹の子鹿が迷いこむようなものだと思うのだが。
その子によって起こるであろう狼たちの醜い争いを想像するだけでも嫌になってくる。
とはいえ、俺だっていい加減彼女いない歴十六年をこれ以上更新したくはない。
そのとき、廊下に何か物影が映った。それまでは騒がしかった教室に沈黙が流れ、皆の視線が自然と扉に集中する。誰かが唾を飲み込む音がした。
そして、扉が開き、そこに立っていたのは。
「うぃーす。今日からお前たちの担任になる、追川勇治だ。よろしくな」
三十代後半と思われる先生だった。
地盤が崩壊するのではないかと思うほどに張り詰めた雰囲気が風船が割れたように弾け、超高速誘導ミサイル、通称『白き閃光』(別名、消しゴム)が追川先生へと飛んでいった。
『まぎわらしいことするなー!』
クラス全員の声が重なり、わけのわからないところでクラスの団結力を見せつけた。
「うあっ、なんなんだお前らー!」
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