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俺は自分の周りだけ重力が五倍くらいになったのではないかと思うくらい沈んでいた。
誰か、俺の平和な学校生活を返してくれーっ!
エコーまでつかんばかりの俺の心の叫びは一人にも伝わらず、皆は欲情に駆られた犬のごとく叫んでいる。まるで通勤ラッシュ時の駅にいるような騒がしさだ。
確かに、ミルの外見は可愛いさ。特に、そのミステリアスな瞳の色や髪の色なんか特にな。実際、俺も最初は一目惚れに近い状態だったさ。だけどな、人は外見で決め付けてはいけないんだよ。昔話にもあるだろう。外見は美しい娘の姿でも、本当は怪物が化けていた姿だった、とかさ。そいつが生きる実例だよ。そいつは猫を被っている――というか、人を被っていると言った方がある意味正しいかもしれいが、とにかく! その姿に騙されんな!
ここでそう叫んでミルの正体を洗いざらいバラしたい気持ちもあるが、もしそんなことをしたら最後、俺は今夜あたりあいつの腹の中に納まるかもしれないからな……。実際、最初の晩には喰われそうになったし、あいつはどこまでが本気なのかわからないところがある。
いつの間にか自己紹介をしていたようで、俺がぼんやりと現実逃避をしている間に、ミルの番のようである。
「というわけで、皆さんよろしくお願いします!」
クラス全員の目が萌えて……じゃなかった、燃えている。
だが、当然ながら俺はその争いからは抜けさせてもらうよ。
「あ、余談ですが、あたしは長谷君の家に居候させてもらってまーす」
あ、てめえ、余計なことを……。
ん? なぜか、大して暑くはないのに額から汗が出てきているのですが? …………いい加減現実逃避はやめるか。
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