第一話 居候の秘密

2/26
前へ
/157ページ
次へ
     1  空は快晴。薄いピンク色をした桜の花びらが柔らかい風に流されている。草は新たな産声を上げ、何もかもが新しくなる季節。  そして俺はというと――布団の中で春の暖かさを満喫していた。  この春から、俺、長谷祐介は私立竜宮高校二年に進級する。進級するというが、大したことはない。クラスメートが変わってしまうのは惜しいが、それ以外は変わらないのだ。確かに、普通の学生にとってクラス替えというのは一大行事かもしれないが、俺にとってはそんな事よりも重要なことがある。 それは、今年は誰が俺ん家に居候するのか、ということだ。 自慢じゃないが、俺の通っている竜宮高校は結構優秀な進学校だ。それゆえに全国から優秀な生徒が集まってくるので、当然遠くから通う生徒もいる。勿論学生寮はあるのだが、部屋数には限りがあるらしく遠方から来ている全ての生徒が入ることができない年もある。そんな、寮に入れなかった生徒のために、竜宮高校には『寄宿制』なるものがある。これは、学校の近くの家庭と学校とが契約し、そこに生徒を下宿させてもらうという制度だ。  それで、俺ん家はその契約家庭になっているのだ。  というわけで、と繋げていいのかはわからないが、今日から俺ん家に新しい居候が来る。転校生で、俺と同学年でかつ女子らしい。本来男子生徒がいる家庭に女子生徒が来るなんて普通に考えたらおかしい話なんだが、……まあ、うちの親ならそんなことおかまいなしにやりかねない。俺の高校も校長からしてどこかネジが外れた人揃いだから多分その女子生徒が拒まないかぎりはそういったことも許可するだろう。その大らかというか大雑把な態度には正直ため息がもれるのだが、まあそれは俺を信用してのものだと受け取っておこう。 そうとなれば問題はその子のことだ。母さんから聞いた話だと、その子はかなりの可愛い女の子だとか。彼女いない暦=年齢である俺にとって、これは楽しみだ。どんな子が来るのだろうか。 さて、今は春休み。宿題も一切出ない、学生にとっては最も嬉しい休暇だ。どうせ暇なのだから、もう少し寝ていようか。今は……午後一時半か。昼寝にはもってこいの時間だな。三度の飯より睡眠。これが俺のポリシーだ。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加