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あれから何時間経っただろうか。目の前に誰かの気配がしたので俺は目が覚めた。
どうせ親が起こしに来たのだろう。放っておいてくれ。俺は睡眠を邪魔されるのが一番嫌いなんだ。
「あのー……」
少し戸惑っているような、高めの澄んだ声。
――誰の声?
俺は目を開けた。白くぼやけた視界がだんだんと晴れていく。そこにいたのは、――女の子だった。目鼻の整った顔に、肩ほどまであるセミロングの髪。よくよく見れば、髪と瞳は真っ黒ではなく、ちょっと赤が混じった澄んだ黒。触れば折れてしまいそうなほどに体は細く見えるが、肌の血色は良い。……それでいて、出るべきところはしっかりと出ている。
「えっ……と、誰?」
口から出てきたのはそんな言葉だった。寝起きで上手く頭が回っていない。自分のぶっきらぼうな物言いにため息がもれる。
「あっ、あたしは長月怜華といいます。えっと、今日からお世話になります!」
それを聞き、ああ、と頷く。
その直後、顔が真っ赤になるのを感じた。……落ち着いて考えれば、初対面が寝顔なんて最悪だ。
「……あの、どうして俺の部屋に?」
「長谷さんのお母さんに、長谷さんを起こすよう頼まれたんです」
「……ああ、そうですか……」
あの母親め。何考えてるんだ。多分俺が寝ているのを知っているはずだ。
「ああそうだ、俺の事は祐介でいいよ。何か堅苦しいしさ」
「はい、じゃああたしの事は気軽に長月と呼んで下さい、祐介君」
『君』って……まあいいや。
「あー、わかった」
「そういえば、祐介君とあたしって同学年なんだよね。もし同じクラスになったら、よろしくお願いします」
長月さんはペコリと頭を下げた。俺もそれに習い軽く頭を下げた。
「ああ、こちらこそ、よろしくな」
これから楽しい日々になりそうだ。
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