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次に時計を見たとき、時刻は既に十時を示していた。
あー、ちょっと本読んでいたらすぐこれだ。そろそろ風呂に入らねば。
欠伸を噛みしめながら風呂場へと向かい、おもむろに脱衣所のドアを開けた。
「………………」
時が凍りついたかのような沈黙が流れた。
最初は驚愕、そして次に沸きあがってきたのは羞恥心。
「…………あ」
長月がいたのだ。それも、ほぼ全裸で。不幸中の幸い、といえるかどうかはわからないが、横を向いていたので『要所』はよく見えなかったが。
「えっ……! あ、あううっ」
長月も驚いている。当然だが。
驚き、呆然とした長月の声で俺は我に返った。
「す、すいません!」
慌ててドアを閉めようとドアを掴む手に力を入れる。だが、何か異変に気が付いた。
「あれ? 今……」
今一瞬だけ(ほとんど生まれたままの姿の)長月を見たとき、何か違和感があった。数秒前の記憶を掻きまわす。数秒前に目に映った映像が頭の中で再生される。
……何か妙なものが見えなかったか? 長月は一体何を拭っていた? 俺の記憶にある長月は、腰の後ろあたりから生えたような『何か』を拭っていなかったか?
俺はドアを閉めようとする手を止めた。そして、閉じていた目をゆっくりと開けた。
相変わらず呆然と立ちつくしている長月は、確かにその腰の後ろあたりから、何か太くて赤いモノを生やしている。これはまるで――
「し、……しっぽ?」
我ながら情けない言葉を発しながらドアを閉めた。そのドアの奥では、まだ長月が驚いた顔をしているだろう。
俺は魂が抜けたようにフラフラと部屋へと戻った。
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