1107人が本棚に入れています
本棚に追加
2023年6月……フロンティアが世に出て8年以上の時が経過していた。
外は季節の移り変わりの真っ最中であるにも関わらず、ある一軒家の2階の部屋に微動だにしない影が一つあった。
”君嶋 克也”はまさにフロンティアプレイの真っ最中だった。
そんな克也を階下から呼ぶ声がする。
「克也?
ちょっと聞いてるの克也~!?」
克也の母親である”君嶋 由佳里”(キミシマ ユカリ)が階下から大声で克也を呼ぶが、フロンティアプレイ中の克也には全く聞こえてはいなかった。
「克也~!!?」
そうだとはつゆ知らず呼び続ける由佳里に、後から話しかける声があった。
「あぁ、おばさん!
いいですよ」
克也の幼なじみ……ショートボブの黒髪に大きな瞳が印象的な”梨木 由亜”(ナシキ ユア)である。
「ごめんねぇ由亜ちゃん。
多分またあのゲームやってると思うから、部屋行って現実に引き戻してやってよ!」
「はい!じゃあそうさせてもらいますね。
お邪魔しま~す」
我が子のていたらくさに呆れている由佳里にぺこっとお辞儀をして、由亜は2階にある克也の部屋へと向かって行った。
「入るわよ?」
聞こえてないとわかっているのかいないのか、由亜はコンコンとドアをノックして部屋に入っていく。
子供の頃から通い慣れた克也の部屋は、少々散らかってはいるが小綺麗な部屋だった。
その部屋のベッドの上で、黒いヘッドギアをつけて寝間着のまま胡座をかく克也がいた。
「全く……せっかくの休みに昼間っからゲームなんてナンセンスだわ」
そう言って由亜は克也の肩を揺らし、起こしにかかった。
フロンティア本体の後頭部付近にある強制終了ボタンを押せばすぐに起きるのだが、プレイしたことが無い由亜が知るはずはなく、とにかく揺らし続けた。
「ちょっと克也?
克也ったら!?
ん~揺らせば起きるんじゃないの?」
その程度では脳波に反応はいかず、克也は覚醒しなかった。
最初のコメントを投稿しよう!