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「もう……起きろおっ!!!」
痺れを切らした由亜は、克也に向かっておもいっきり平手打ちを繰り出した。
頬と掌が打ち合う音が部屋中に響き渡った瞬間、フロンティア本体から「ピピピピ……」と電子音が鳴り響く。
強制終了……ログアウトの合図である。
「痛っ……てぇ!!!」
フロンティアから強制ログアウトを受け、意識体が現実に戻って来た瞬間に襲った頬の痛みに、克也は思わず絶叫してしまった。
「あ、おっ帰り~」
「お帰りじゃねえよ!
何で?てか何で?
つうか痛て~し、何で由亜が居んだよ」
いきなり襲う頬の痛みに目の前の幼なじみ、状況の読めない克也は首を降って大きめの目をぱちくりさせた。
「何で?じゃないわよ……あんた今何時だと思ってんの?
休日の昼間にカーテンも開けずにゲームだなんて…バッカじゃないの?」
由亜は、何で?と克也の真似をしながらおどけて、まるで第二の母親の様に叱ってみせた。
「うるせぇな、いいだろ別に…
で、何の用だよ?」
由亜から説教をくらうのは慣れっこか、克也はゲーム機を外しボサボサの黒髪をあらわにさせると、さほど気にすることなく話を進めた。
「図書館行かない?
もうすぐ前期試験だし!」
「図書館ていつの時代だよ……わっざわざあんな息苦しい場所行ってどうすんだ?」
「試験勉強と言えば図書館でしょ!
ねぇ?行かないっ?」
静かな空間で集中して勉強をする……今も昔も定番の図書館ではあるが、克也はそういう堅苦しい場所が嫌いだった。
「いや……?」
しかし、ベッドの下から見上げる幼なじみの上目使いに、克也の薄っぺらい嫌悪の守りはいともたやすく打ち砕かれた。
「わ、わかったよ……仕方ねぇな!」
「やった!
じゃあ早く準備してよっ」
あっさり由亜の願いを聞き入れてしまった克也は、自分の意志の弱さを痛感したのか頭を落とした。
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