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早々と白黒のネルシャツ、黒っぽいワークパンツに着替え、試験勉強の準備を整えた克也は由亜の待つリビングへと降りて行った。
「ほら出来たぞ!
さっさと行こうぜ」
「お、早いじゃん!」
ソファーに腰掛ける由亜は、君嶋家で飼っている猫を膝の上に乗せリビングで由佳里と話していた。
由亜はぴっちりした長袖のTシャツに、細目のジーンズを好んで着ているせいか、体のラインが強調されている。
その由亜に抱かれている猫のポジションは、何とも羨ましい位置である。
「じゃ、行こっか」
猫を下ろし由佳里に挨拶を済ませると、克也と由亜はリビングを出て行った。
「由亜ちゃんっ!
サボらないよう克也をよろしく頼んだね」
部屋を出る時、由佳里からお目付けを頼まれた由亜は「頼まれました!」と握りこぶしを作り笑顔で答えた。
頼まれんなよ……と悪態をつく克也と共に家を後にした。
克也の家から程近い場所に図書館はあった。
幼少より通っていたその図書館は、特に目立った所は無いものの、どこか趣を感じる建物である。
「さて……何からやる?」
小声で話す由亜は、ピンクのお洒落なトートから大学のテキストを取り出しながら克也に仰いだ。
克也と由亜は同じ大学に通う2年生で、学科は違うものの学部が同じなので一緒の講義も多くあった。
「ん~じゃあ簿記でもやるか?
いまいちわかんねぇし」
「簿記は得意だから、まっかせなさい!」
ドンと胸を叩く由亜は、克也に教える為に簿記のテキストを開きさっそく取り掛かった。
「だ~か~ら違うってば!
何でそこに書くのよっ!仕入れが――だから売掛と買掛が―――」
「何でだよっ!
ここで借入してんだから―――で―――収益計算が―――だろうが!」
全く理解を示さない克也に、ここが図書館だと言うことも忘れ、由亜は大声を荒げてしまう。
同じく自分の理解が間違ってる意味がわからない克也も、由亜に怒鳴り返してしまった。
「ちょっと君達……ここは図書館なんだよ?
こっちは真面目に勉強してるんだから、静かに出来ないなら他所でやってくれよ……」
とうとういかにも受験生といった学生に注意されてしまい、居づらくなった二人は怖ず怖ずと図書館を後にした。
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