玉響

13/45
前へ
/45ページ
次へ
「佐藤さん、大丈夫? 佐藤さん!」   その声に、私はどこか遠いところから、ものすごいスピードで引き戻されたようだった。   目覚めたら、何故だかとても息切れしていて、額にはうっすら汗が浮いていた。   「うなされてたよ、大丈夫?」   傍らには、哲平が心配そうに居た。   「……帰ってきたの」   「うん、今。……夢、見たの?」   ―――――― 夢。   そう、またいつもの悪い夢だった。   夢の中で、私はいつだって幼い子どものままだった。    父が事故で亡くなって、母が泣いていた。その時の木製の棺と、お葬式の白黒の風景を、私は今でも鮮明に覚えている。 そのあと間もなく母が倒れ、あっという間に亡くなってしまった。 脳梗塞だった。 まだ若かったのに……。 その時私は、人というのは、嘘みたいに簡単に死んでしまう、居なくなってしまうものなのだと実感した。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

308人が本棚に入れています
本棚に追加