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「佐藤さん、大丈夫? 佐藤さん!」
その声に、私はどこか遠いところから、ものすごいスピードで引き戻されたようだった。
目覚めたら、何故だかとても息切れしていて、額にはうっすら汗が浮いていた。
「うなされてたよ、大丈夫?」
傍らには、哲平が心配そうに居た。
「……帰ってきたの」
「うん、今。……夢、見たの?」
―――――― 夢。
そう、またいつもの悪い夢だった。
夢の中で、私はいつだって幼い子どものままだった。
父が事故で亡くなって、母が泣いていた。その時の木製の棺と、お葬式の白黒の風景を、私は今でも鮮明に覚えている。
そのあと間もなく母が倒れ、あっという間に亡くなってしまった。
脳梗塞だった。
まだ若かったのに……。
その時私は、人というのは、嘘みたいに簡単に死んでしまう、居なくなってしまうものなのだと実感した。
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