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「白状しようか?」
突然唇を離して哲平が言った。大の大人の乱れた髪が可愛かった。
「何?」
「公園で佐藤さんを見つけた時…」
「あ。ねぇ、もう佐藤さんはやめて。朋美よ、朋美。で、哲平ね。」
私は笑いながら、人差し指を哲平の形のいい唇に押し当てた。それをゆっくり握って外すと、彼は続ける。
「笑わないで。僕ね、あの時、お姫さまを見つけた王子の気分だった。こんなに可愛い女の子が、ある日突然、いつもは何もない僕の散歩の途中に倒れてたんだ。奇跡ってあるんだなぁって。だけど君はひどい熱中症みたいだった。医療処置の名目でさらってきたものの、内心はすごくビビってた。」
「誘拐で訴えられる?」
「それも考えた」
彼は笑ったけれど、あの時の私には、どうにもおもしろくなかった。
「……やめなよ、そういうこと言うの。誰が聞いたってこんなの行きずりの関係だし、哲平みたいな完璧な人間がそういうこと言っても信憑性なんか全然無い。あとであれは魔が差したんですって、言うに決まってる。」
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