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それから、夕食を食べた。けれど味わえない。頭のどこかが、ひどく混乱している。
―――― この人は、遠くへ行ってしまうのだ。もう何かを失いたくないなら、絶対に好きになってはいけない。
素直になれない私の愚かな言い訳が、ぐるぐると胸の中に渦巻いた。
とにかくそんな事が決まってから、哲平は色々な手続きをしたり、話を聞きにいったり、予防接種を受けたり、着々と準備をしていった。
私もただ休んでいるわけにはいかないので、新しい仕事を探し面接の日どりを決めたりした。
また戻ってくるからと、実は哲平の持ち家だったこのマンションに、いつまでも気兼ねせずに居てもいいと言ってくれたので、腰を据えて就活ができる。
ただでさえ忙しい哲平とはすれ違いの生活だったけれど、時間の早い遅いに関わらず、私たちは顔をあわせればいつだって楽しく語り合ったし、時にはあの夜と同じように熱いセックスもした。
人生が、こんなに充実していると感じたのは初めてだった。
哲平と私は、何をしても楽しくて、何もしなくてもしっくりいった。
その感覚は、ちょうど昔無くしてしまった自分の片割れを見つけたようだった――――。
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