玉響

31/45
前へ
/45ページ
次へ
 結局哲平が日本をたったのは、それから2週間後だった。    すべての支度が整って、最後の日、私と哲平は、広いバルコニーにでて、少しだけビールを飲みながら他愛ない話をした。 たまたま遠くの花火大会の音だけが聞こえてきて、二人で探した。 「見えないね」 「うん、残念。あっちじゃ日本のみたいにきれいな花火、きっと見られないから。花火かぁ。調べとくんだったなぁ。」   哲平の横顔は、子どもみたいに無邪気な笑顔だったけれど、そんな言葉が私にはいちいち、胸にチクリと痛かった。   浮かない顔を見せたくなくて、私はそっと部屋にもどった。 気がついて、一呼吸おいてからもどった哲平が、私を背後から抱きしめて尋ねた。 「……朋美さん、僕が居なくなると、寂しい?」 「……うん。でも私…」 続きも聞かずに、彼は私を向き直らせると唇をふさいだ。 口を開けばまたネガティブな事を言うと、わかっていたのだろう。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

308人が本棚に入れています
本棚に追加