始まり

21/45
前へ
/45ページ
次へ
 牧野さんは、俺に向かい心配そうに言った。  「勇君、昨日酷い事言ったから、仕返しに来たのかな?」  俺は笑いながら牧野さんに安心する様に言った。  「大丈夫ですよ。あの人川沿いの新築マンションの人みたいですよ」  「いやだ。私やっぱりあやまらなくちゃ」  牧野さんはコーヒーを運び、リーさんのテーブルに行くと、深々と頭を下げて謝罪をする。  リーさんは牧野さんの謝罪に、席を立って頭を下げて応じていた。  牧野さんとリーさんの頭の下げ合いは、中々終わらなかった。  ようやく、終わったお辞儀合戦は、両者譲らず引き分けに終わった様で、牧野さんもリーさんも、顔が上気していた。  テーブルのリーさんが、おしぼりで顔を拭くのが可笑しかった。  ちなみに帰りにも、両者の対戦は実現し、再びドローとなった。  それ以来、リーさんと牧野さんは、とても仲が良く時々居酒屋で酒など呑む仲だった。  そんなリーさんが、ゴト師だなんて急には、ピンと来なかった。  「リーさん、どうして俺を助けたの?」  「勇君が、あの時助けてくれなかったら、私は多分日本にいられなかった」
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1339人が本棚に入れています
本棚に追加