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──静かだ。
僅かに見えていた日の光はとうに消え、この国では珍しくもない雪がしんしんと降り積もる。
だが、エリヤ・エンデはこの雪をこよなく愛していた。
刻限からいっても、もうどこも店仕舞いをしている。灯りは家の中から暖かく漏れてくるか、外灯がうら寂しくともされているか……どちらかだ。
エリヤは人気のなくなった通りの片隅で腰を下ろし、目を瞑り、静かな雪の音だけを聞いていた。
栗色の髪に。
温かな外套に。
確実に雪が降り注ぐのにも気に留めず。
「おい、コラ」
静寂を打ち破る、苛立ちをこめた声がエリヤのすぐ傍で放たれた。
「ああ、カルー。お散歩は終わったの?」
にへら、とエリヤが緊張感の欠片もないだらしない笑顔を向けると、カルーと呼ばれた──白黒の猫が毛を逆立てた。
「お散歩言うなっ! 視察と言え、視察と。というか、お前は馬鹿か? 先に聖堂に行っていろとカルーは言った。何度も言った。なのに何故お前はここにいるんだ」
「うーん…何でだろう」
エリヤの体がふるりと震え、そこでようやく寒さを認識したようだ。
鈍すぎる。
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