猫と少年と雪の国

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 ああ、とエリヤは気が付くと、提げていた大きめのバッグからノートとペンを取り出した。  エリヤの必需品だ。  そして男の手を取ると、外灯の下まで導く。 「な、何だい?」  突然のことに戸惑う男にお構い無く、エリヤは灯りの下、さらさらとペンをはしらせた。 『場所は知りません。でも、多分今日はもう閉まってます』  そう書いたノートを、しっかり相手に掲げて見せた。 「君は声が……?」  もちろんカルーを相手にあれだけ喋っていたのだ。  そんなことはない。  これも罪人の子に定められた決まりの一つだ。  罪人の子となってから直接会話をするのは、カルーだけ。他人とは筆記か手話が主だった。  エリヤが罪人の子だと分かっているオルセンの民なら、何の疑問もなく受け入れるところ。  単に気付いていないのか、よそ者か。  何れにせよ説明する手間を考えて、男の疑問に肯定も否定もせずにいた。  そして、更にノートに書き足す。 『今から聖堂に向かいます。司祭様の方が詳しい場所を知っていると思います。聞いてから明日出直したらいかがですか?』 「君は聖堂にお世話になっている子なのか。有難い……が、いや困ったな」
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