青天の霹靂

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静かになった店内では有線で切ないラブバラードが流れていた 『いつの間に転職したのさ』 テーブルを拭いた後目の前に座ったマスターに言った 『転職した訳じゃねぇよ。社長もおいでだし』 カウンターに座った男性がこちらを向いて軽く頭を下げた 『初めまして、妹の玲です。兄がお世話になっております』 急いで立ち上がって挨拶をすると 『いえ、こちらこそ』 静かに言ってカウンターに向き直った 『兄ちゃん、あの人どっかで見た気がする』 ボソボソと小さく呟いた 『あ?』 『あっ分かった。確か芹沢なんとかって女タラシ。大学の時にそりゃもう凄い騒ぎでもう一人医学部の何とかって人と食いまくってるって』 『ブッ』 『大丈夫ですか?』 遠目でしか見たこと無かったけど騒がれたのも分かる気がする 芹沢さんは珈琲を吹き出したのか兄ちゃんは慌ててカウンターに駆け寄った 今の内に逃げよう どうせ仕事の話をあたしに話すつもりも無いだろうし あたしだって兄ちゃんにあれこれ聞かれても話す気は無い 今思いのほか声を張ってしまったのはわざとじゃない 『じゃあ兄ちゃんまた。すみません。過去とは言え本当のことを芹沢さん…兄を宜しくお願いします』 入り口に立ってぺこりと頭を下げるとハンカチで鼻を押さえながら睨まれた 『あっおい待て』 兄ちゃんの声を背に駆け出した
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