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「……黒曜。ちょっとは俺の話を聞いたら?」
現れたのは、真っ黒な大鴉だった。
鋭く光るくちばしを振り上げて、赤い目をぎらぎらさせながら八雲を威嚇する。
「人間の言葉なんかが信用できるか!」
しかし八雲は鴉の激昂をどこ吹く風と、呆れたような口振りで手を休めずに言う。
「あぁはいはい。ちょっとそこのほうき取ってよ、境内掃除するから」
黒曜は八雲のなげやりな態度にますます腹を立てたのか、屈んだ八雲の後頭部に爪を立てて乗り、一際大きな声で怒鳴りちらした。
「クソガキが、オマエこそ俺の話を聞けっての!!誰も此処を掃除しろなんて……」
「痛い!痛いって黒曜ッ、うぅ、降りろバカ!!」
鋭く尖った爪に流石の八雲も悲鳴を上げる。しかし黒曜が力一杯突き立てた爪は、八雲が振り払おうとすればするほど深く食い込む。
「やめてぇえぇ、禿げるー!!!」
「一言二度と此処には来ないと言えッ!!さもなきゃ貴様の脳髄ぶちまけるぞ!!!」
ぎらりと黒曜のくちばしが凶悪に光る。しかし。
「うーっ、でもそれは無理ッ!!此処俺の神社だからッ!!!痛い痛い痛い!!!」
八雲の一言に、黒曜と呼ばれた片目の大鴉はギャアと叫び、緑に輝く翼を翻して飛び上がった。
「だから!此処は俺の神社だ!!祭神はこの俺だ!!人間如きが勝手な真似をして許されると……」
見上げる八雲の額からは血が流れている。それを拭い、慣れているとは言え痛みに顔を歪めて八雲は言った。
「ああ、この弓弦羽神社で祀られてるのは確かに八咫鳥のオマエだよ、黒曜」
八雲の話を聞いているのかいないのか、黒曜はぎゃあぎゃあと騒がしく鳴き声を上げながら何度も八雲の周りを旋回する。
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