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一呼吸置いて、八雲は旋回する八咫鳥をじっと見据えて言った。
「でもな、オマエを祀るのはこの俺だ」
どれくらい八雲の詞は鴉の神に伝わっているのだろうか。
黒曜は鳴くのをやめると、不意に高く飛び上がり、姿を暗い太陽を遮る枝葉の間に隠してしまった。
「……その生意気な口、いつまでもつか……」
「なに言ってんだ、会ったときからずっとそう言ってんだろ」
吐き捨てるような黒曜の言葉に、苦笑して八雲は肩を竦める。
「……オマエを護るのが、俺の使命だからな……」
黒曜が黙ってしまうと、林は再び薄気味の悪い沈黙に包まれた。今度は他の鴉たちも黒曜に従って気配を殺している。
八雲は、この神主のいない弓弦羽神社の神主になるべく、何年も荒れ放題の社に通って朝晩掃除し、お神酒を上げている。
しかし肝心の祭神は、人間に目を潰されてからすっかり人間不信に陥って最早人を護る力のほとんどを失っている。そして人々は信仰を忘れた。災神になるところをギリギリふみとどめているのが、妖の視える八雲だと言うのに、黒曜は全く八雲に心を開こうとしなかった。
一通り日課の掃除を終え、参拝も済ませた八雲はバケツを持って参道を引き返そうと、立ち上がった。
帰りの挨拶をしようと、居場所のわからない祭神に声を掛けようとした、その時だった。
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