28.甘く蕩ける珈琲の如く

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 日向は時間を持て余していたので寝巻のまま庭に降りる。  寒さが訪れる直前、空気はショート寸前の頭に心地好い。  庭の芝も木々も気持ち良いくらいに整備されている。 「……眠……」  緑の匂いが身体を包むと途端に瞼が重くなった。  綺麗な庭に大の字で横たわるとそよ風が身を切る。  空は雲がまばらにあるものの快晴の予感を漂わせていた。 「……母さん……」  一度も会うことなく他界した母親に無性に会いたくなった。  アルバムの写真で見た母親、蛍は見たままの病弱体質で日向の命と引き換えに帰らぬ人となったと聞いている。 「助けて……」  日向には道の寸分先も見えなかった。  そんな時に母親に会いたくて会いたくて堪らない。 「俺……様……」  日向の意識は風にさらわれてそこで途切れた……。
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