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日向は深い真っ暗闇の中で珍しく夢を見ていた。
手を伸ばしても届かない幸せを見つめて……―――目に収まり切らない涙が溢れたところで現実に引き戻される。
『百合子を、百合子を頼みます……、日向君……』
最後に囁いた声はいつまでも日向の耳に残った。
開いた目の前には泣く子を喚かせる怖い顔をした智之が居た。
「……あれ……?」
「この馬鹿……っ」
智之は恐らく出会ってから初めて日向を叱責した。
いつもの微笑む余裕など無いらしく、声も荒々しい。
日向に伸ばした手は指先が震えていた。
「……良かった……」
疑っていた何かが弾けるような一言に違いなかった。
そう言われて胸に暖かく心地好い物が光を放つ。
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