戸惑い

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「それじゃ、後は頼みますね。望月さん。」 「ああ。茉奈ちゃん気をつけて帰れよ。」 「はーい。ありがとうございます。」 帰路につく茉奈。 そして【夜風】に残された、私と修也さん。 茉奈が突然、修也さんを電話で呼び出したのだ。 「修也さん、仕事中だったんじゃないですか?ごめんなさい…。」 「いや、そろそろ帰ろうと思ってた頃だし、大丈夫だ。」 修也さんは優しく微笑んでくれた。 修也さんが来てくれて、さっきまで落ち込んでいた気分が上昇するのを感じた。 「…彩希、まだ俺と付き合ってみる気はないか?」 修也さんが真剣な眼差しで聞いてきた。 「…………修也さん、私は…。私は、父が…父…が…っ。ごめ…」 後は涙で言葉にならなかった。 「……俺じゃ親父さんの代わりにはなれないか?」 「え…?」 修也さんの言葉に驚き、私は目を見開いた。 「最初は親父さんの代わりでもいい。だから俺と付き合ってみてくれないか?」 「そ、そんな事…!そんな事はできません!」 嬉しかった。 そこまで私を想ってくれているんだ。 でも、そんな修也さんに甘えちゃいけない。 最終的に父を選んだら、修也さんを酷く傷付ける事になってしまう…。 「駄目…か。また振られちまったな…。アハハ…」 修也さんは無理して笑顔を作って見せたが、傷付いているのを隠しきれていなかった。 いつも余裕の修也さんをここまで傷付けたの?私…。 こんな修也さんを見たくない。 修也さんを守りたい。 私は立ち上がると、椅子に座る修也さんを後ろから抱き締めていた。 「彩…希?」 修也さんの戸惑う声で私は我に返った。 「あ…っ」 私、何やってんの!? こんな公衆の面前で…。 周囲の視線を痛いほど感じる…。 私はササッと椅子に座ると、俯いて真っ赤になった。 穴があったらマジ入りたいよぉ…。 「ハァ…」 大きな溜め息が出てしまった。 「プッ クククッ そう簡単に彩希が手に入るとは思ってないから。俺に気を使うなよ。」 そう言うと修也さんはいつもの意地悪な顔で笑った。 「……え?…じゃあ、さっきの傷付いた顔は何!?」 「ククッ そりゃ、片想いでも少しは優しくして貰いたかったからなぁ。まさかハグしてもらえるとは思わなかったけど。クスクス」 空いた口が塞がらない私。 だ、騙された!? 【傷付いた心を隠しきれない】という演技!? …こンの男はぁ~!!
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