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「理由によっては…布、あげてもいいわよ」
「な…っ」
少年は親父から逃げるときに布地全てを置いてきてしまっていた。
彼が布地を必要としていたのは間違いなかったので、とりあえず交渉のネタに使う。
「ほらっ早く言いなさい!
父さんが外出してるはずだから早く行かないと!」
私は彼をからかい半分で急かした。
しかし言ったことは事実だ。
彼は私の考えを一瞬で悟ったのか、小さく唸ったが、この状況に耐えられなくなったらしく、仰向けのまま口を開いた。
「――村の仲間の為だ」
「でも何で布?」
「夏風邪をこじらせて高熱を出してる奴が居る。
けど村には額を冷やすのに当てる布が無かった。
――それだけのことだ」
少年は私から顔をそらした。
照れ隠しだろうか?
「やっぱり優しいじゃない。
――約束通り…布いくらかあげるわ」
地面に寝転ぶ彼の腕を引き、起きるよう、促した。
「ほら、早く行くわよ!」
私は少年を連れて家に向かった。
それは、日も暮れ始めた夕方のこと。
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