第一話

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「理由によっては…布、あげてもいいわよ」 「な…っ」 少年は親父から逃げるときに布地全てを置いてきてしまっていた。 彼が布地を必要としていたのは間違いなかったので、とりあえず交渉のネタに使う。 「ほらっ早く言いなさい! 父さんが外出してるはずだから早く行かないと!」 私は彼をからかい半分で急かした。 しかし言ったことは事実だ。 彼は私の考えを一瞬で悟ったのか、小さく唸ったが、この状況に耐えられなくなったらしく、仰向けのまま口を開いた。 「――村の仲間の為だ」 「でも何で布?」 「夏風邪をこじらせて高熱を出してる奴が居る。 けど村には額を冷やすのに当てる布が無かった。 ――それだけのことだ」 少年は私から顔をそらした。 照れ隠しだろうか? 「やっぱり優しいじゃない。 ――約束通り…布いくらかあげるわ」 地面に寝転ぶ彼の腕を引き、起きるよう、促した。 「ほら、早く行くわよ!」 私は少年を連れて家に向かった。 それは、日も暮れ始めた夕方のこと。
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