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少ししてから、私たちは家の裏口に立っていた。
すぐに少年はそこから少し離れたところで草鞋(わらじ)を脱ぎ始めた。
――それは決まりごとの一つ。
私は止めるよう促したけど、少年は決まりだ、と聞かなかった。
がら…
私は念のため父が居るかどうか確かめた。
丁度良く、まだ夕飯の買出しか何かから帰っていないらしい。
人気がなかった。
「さぁ、入って。
その格好のままじゃ通りで目立っちゃうから、着替えも持ってくるね。
…あ、そこで顔も洗っておいて」
「おい」
少年は文句ありげな声で私を引き止める。
「私は”おい”じゃないっ。
志那って名前が在るの。
――ぁ…そういえば、貴方は何ていうの?」
「――師走」
師走は真冬の月だ。
私は人の名前を覚えることは不得手な方だったが、彼の髪の色を見ると、すんなり、頭に入ってしまう。
――雪を思わせる、白銀の髪。
それは顔を隠すほどの長髪だった。
何だか引き込まれてしまいそう。
どぎまぎしてしまう。
「――じゃ、じゃあ、持って来るね、師走」
「待――」
私は少年――師走に引き止められたが、それを聞かずに奥の部屋へ向かった。
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