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「――御免なさい……。
そう思われても仕方ないと思ってるし…貴方達から見れば、私は偽善者にしか見えない事くらいはわかってる。
――でも、差別を憎むなら、何故それを守るの?」
「――……」
師走は呆然としていた。
私の言った言葉が、予想外のものだったらしい。
「――大体、そうやって土間に突っ立ってる時点で、決まりを破ってるじゃない」
私は文句を言いながら布切れを手に取り、汲んであった水につけた。
すぐに水を充分に含んだので、軽く絞る。
「こっちを向いて」
私はそっぽを向いている師走に言った。
師走が無言のまま、嫌々こちらを向く。
その顔が、またそっぽを向かないように、私は先に左手を彼の頬に寄せて、それからもう一方の手で布切れを持ち、顔へ運んだ。
「何すんだよ!」
「これなら決まりを破ることにはならないでしょう?」
私が言うと、師走は私の手から布切れを奪い取り、自分で顔をぬぐった。
「これでいいだろ」
「そうね。
あとは…髪を束ねた方がいいかも」
顔さえまともに見えないほどに伸びている銀の髪。
これほど目立つものは無い。
私は師走の背後に回り、麻で出来た紐で長い髪を結い、また正面に回り込もうとする。
「――よし、これで少しは小奇麗に見える――」
これが師走の顔を初めて見た瞬間だ。
元々毛色が変わっている少年だったが、容姿もまた、独特のものだった。
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