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蒼理さんの突然の訪問。
どうしたのだろう?
「――ごめん、師走…出てくるね」
「ああ…俺は部屋の影にいる」
「ありがとう――今出ます!!」
私は玄関に向かって返事をすると、廊下を真っ直ぐ突っ切り、正面玄関へと足を運ぶ。
がら……
戸口に、端整な顔があった。
――その顔は何処か幼さがあり、少し女性的なものだった。
「――今晩は、志那」
蒼理さんは優しく言った。
表情と同じく、穏やかに。
「こ、こんばんはっ」
可愛らしささえ感じさせるその整った顔と穏やかな物腰は、町の女性を引き寄せる。
当然、町娘達からの人気は絶大なもので、私達の祝言が決まった時に周囲から色々文句を言われたことは言うまでも無い。
町で一番大きな酒屋の跡取りなのだから、尚のこと。
「――こんな遅い時間にごめんね。
もしかして何か用事?」
私が玄関に出るまでに少し時間が掛かった為か、そう思ったらしい。
「え、ええ、まぁ……」
私は言葉を濁す。
来客が居る、とも言えず、何の用事も無い、とも言えず。
私は正直だった。
「なら、手短に済まそうかな。
――志那、目を閉じて」
蒼理さんは悪戯っぽく笑う。「え……?」
「いいから、ほら」
彼に急かされ、私は恐る恐る目を閉じる。
私自身が急いでいたのも確かなので。
「こう……ですか?」
「――それと、手を出して。
片手だけでいいから、掌を上にして」
「はい」
私は言われた通りに、右手を出す。
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