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「――あの……」
自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。
細いけれども、私より間違いなく広い肩。
そして、かすかな酒の香り。
香りに酔ったのか、膝の力を失い、私は崩れ落ちそうになる。
その様子に気付いたのか、蒼理さんはしっかりと、私の体を抱きしめ、耳元でつぶやいた。
「驚かせてごめん。
でも、これがおれの気持ち」
そう言うと、彼は私を放し、じっと見つめた。
「――押し付けがましいのは分かってるんだ。
でも、ずっと…小さい頃から志那のことが好きで、祝言が決まった時もとても…とても嬉しくて、それで、その……」
言葉に詰まったらしい。
蒼理さんは、そのままうつむいてしまった。
「――気持ちを言葉にするのって、とても難しいですよね?
だから…無理に言葉にしなくても良いと思います。
私は蒼理さんが私のことを大切に思って下さっていることは知っているつもりですから……」
私の言葉に、蒼理さんは顔をほころばせる。
「ありがとう。
――じゃぁ、もう帰るね」
「そうですか…。
あ、おじ様おば様と蒼音ちゃんによろしくお伝え下さい」
蒼音ちゃんは、蒼理さんの妹さん。
小さくて、可愛らしくて、元気な子。
小さい頃からよく一緒に遊んでいた。
「わかったよ。――御休み」
柔らかな微笑み。
それは、ちく、と、私の心を突き刺す笑み。
「――お休みなさい」
私は家の前で蒼理さんを見送ると、戸を閉め、裏口へ向かう為に家に上がった。
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