8人が本棚に入れています
本棚に追加
「志那(しな)!
お前、また出かける気か?」
町の呉服屋「葵屋」の店主である父が土間に立ちはだかる。
それに対し、娘の私は小芝居の入った仕草をする。
「父上様、志那は外の空気が恋しいのです。
それにもう少しでこの家の者では無くなるのですよ?
店の手伝いなら他に雇って下さいな……」
私が秋に挙げると決まった祝言の話を持ち出すと、父は決まって涙目になる。
なのでその隙を狙うのだ。
そしてそれは、今。
父が自らの手を顔にやっている間に、私は全速力で外へ。
「行ってきまーす!」
「――ってコラァ――ッ!!!!」
父が鼻をグスグスいわせながら怒鳴ったが、私は振り返ることなく走り続けた。
最初のコメントを投稿しよう!