第一話

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「志那(しな)! お前、また出かける気か?」 町の呉服屋「葵屋」の店主である父が土間に立ちはだかる。 それに対し、娘の私は小芝居の入った仕草をする。 「父上様、志那は外の空気が恋しいのです。 それにもう少しでこの家の者では無くなるのですよ? 店の手伝いなら他に雇って下さいな……」 私が秋に挙げると決まった祝言の話を持ち出すと、父は決まって涙目になる。 なのでその隙を狙うのだ。 そしてそれは、今。 父が自らの手を顔にやっている間に、私は全速力で外へ。 「行ってきまーす!」 「――ってコラァ――ッ!!!!」 父が鼻をグスグスいわせながら怒鳴ったが、私は振り返ることなく走り続けた。
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