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女は今、歩いている。
と言っても、ただ歩いているわけではない。
自慢だった色素の薄い髪の毛先は絡まり、華やかに着飾り、往来を歩いている女達と同じ年頃とは到底思えない、いわゆる「ボロ」を身に纏っている。
息を切らしながら人目を避けるように、暗い裏道を早足で歩く。
いつしか、走っていた。
年頃の女子がそのような格好でいるだけで、例え醜女であろうと人々の視線は痛いものだが、この女の器量は悪くない。
加えてこの女、およそ女子らしからぬ走り方をしている。
手を脇の横で可愛らしく振り、申し訳程度に足を動かすあの走り方ではない。
着物の裾が乱れても何のその。
どこぞの短距離走選手の様に、大胆に走っているのだ。
その為、普通よりも多くの人々の視線を奪ってしまう。
裏道という道の特徴を考えれば分かるが、視線を奪われた者の中には、何やら怪しい風体をした悪そうな連中もいる。
しかし、女は走り続けた。
―そう、女は逃げていた。
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