雪の日に逃げました。

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女は部屋にいる男を見る。 (あの、男、だ。) ずっと通い詰めていた男である。 岩崎と言う男は、女を舐め回す様な目で見やり、いきなり殴った。 倒れた女は後ずさる。 背筋が凍るというのは正にこの事だ、と思った。 他の客とは違う。 今までの男達は、殴ると言っても、試し程度で、理性を失ってはいなかった。 でもこの男は、違うのだ。 本気で、気色の悪い目をして殴りかかってきている。 「あんた、殴られても痛ないんやろ。好都合なんや。他の女子やったら泣きわめいてそれ所じゃなくなってしもて、何もできへんのやさかい。」 そう言って、男は女の着物に手を掛けた。 「なっ…」 「ぎょーさん金払うたさかいに、楽しませてもらうで。」 あろう事か、この店の主人は、女に女郎紛いの事をやらせようとしているのである。
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