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初めての顔合わせは渋谷の劇場で行われる。
隼人の運転するBMWは下北沢から渋谷へと向かっていた。
2人は車の中で、まるでこれから旅行にでも出かける様にワクワクとして会話をした。
「東京出てずっと下北住んでんのか?」
「ずっと下北さ。」
「何で下北なんだ?」
「これから先、役者として食っていけるか判んないけど、この街じゃなきゃ感じられないものがある気がしてな…」
「……」
隼人は黙って聞いていた。
「後々にさ…この下北が原点です…みたいな…カッコいいじゃん!」
「ハハハ…」
「何笑ってんだよ。“格好悪いっていうのがカッコいい”ってこういう事なんだよ」
「こだわりがあるのは相変わらすだな…」
「まぁな…」
隼人はふと、思い出して
「そういや、高3の時のコンクールの芝居覚えてるか?」
「忘れるわけないじゃんか!俺達が全国最優秀賞をとった“姥捨て伝説”の芝居だろ?」
弦は即座に答えた。
「あの芝居で、俺と格闘するシーンがあったろ?」
「あった。あった」
「格闘の殺陣(たて)でお前、どうしても納得いかなくて、演出やっていた顧問の先生の大原に食ってかかってたな…」
「そう、そう。」
「大原も、なんでこいつこの場面にこだわるんだ?みたいになって…結局、お前らに任すって…」
「いや、あの場面は“最後にお前が俺に馬乗りになったところで引き離される”ってシナリオだったろ?だから、負けっ放しじゃ嫌だったから、前半は俺が優位に立ってる殺陣にしたかっただけだよ」
「この、負けず嫌いが…。しかしよく覚えてんな」
「忘れるもんか!…『ハムレットみたいな深刻ぶったツラしあがって…それでお前の母ちゃんが泣いて喜ぶとでも思ってんのか!』って言う隼人のセリフがゴングだったなぁ…“カーン”って…あ~思い出したら、久しぶりに腹立ってきた」
「よせよ!おい」
「ハハハ…」
「あの場面はいっつもお互い本気だったよな、練習終わったあと必ず青タン出来てた…」
「大原が『お前ら、手加減したら客がしらけるぞ!』なんて煽るもんだから…」
そんな昔話をしながら車は渋谷の街に到着した。
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