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立ち上がった弦は、
「皆さん初めまして…秋本弦といいます。今回、隼人…いや、東条さんから話を頂きまして驚きと戸惑いを感じまして……始めは、コイツ俺の事おちょくっているのかとさえ思った程でした…」
そう言って、チラッと隼人を見て苦笑いをした。
「俺は東条隼人君とは同級生で、高校で一緒に芝居をやっていました。今は、下北沢のある劇団で芝居やってます。練習以外の時はバイトの毎日です。そんな冴えない役者にこんな大きな劇場で『一緒に芝居をやらないか』と声をかけてくれたのです。誰だって冗談だと思うでしょう。でも、コイツは本気でした……俺は立派に代役を務めてこの芝居のピンチを救おうなんて、とてもおこがましくて言えません。…ただこの芝居を一所懸命、楽しみたいと単純に思っただけなんです。力不足は承知の上です。ただただ最後までやり抜く覚悟ですので、皆さん、宜しくお願いします」
弦は素直な思いを言い切って、ほっとした表情でイスに座った。
スタッフ連中が少しざわついていた。
照明のひとりが代表するかの様に、
「プロデューサー!本気なの!?大丈夫なんですかね!?こんな海のものとも山のものとも判らないヤツ…いや失礼!…お方に代役を任せても…この芝居はその辺の小汚ない小屋でやっているのと訳が違うんですから…」
「そうそう!これは芝居ごっこじゃなく、ビジネスなんだから!」
「個人的に楽しまれちゃっても困るよなぁ~…」
あちこちから不安と不満の声が、容赦なく弦に浴びせられた。
一瞬にして会議室は騒然とした。
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