~ 第1幕 再会 ~

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 弦は隼人の真剣さに “真剣さ負け”した。 「…で、芝居のタイトルは何だ?」  隼人は思わずニヤリとして 「蒲田行進曲…」  弦は驚いて 「か!、蒲田行進曲!?ホントに!ホントか!?」  と聞き返した。  隼人はすかさず 「本当だよ!蒲田と聞いちゃお前もやらないとは言えないだろ?」 「そりゃそうだけど…」 「しかも、しかもだよ、演出を聞いて驚くな…原作者の『つかだこうへい』だよ!!」 「ぎゃーお!!」  弦は思わず、驚きを越えた奇声を発した。  奇声はラウンジ中に響き何事が起きたかと周りは皆振り向いた。  隼人は気まずそうに四方に頭を下げた。 「“ぎゃーお”って今どきマンガでも言わないぜ。まあ、落ち着け…とにかく時間が無いから、これ…」  と、ジャンバーの内ボケットから丸まった台本を取り出した。  表紙には確かに『平成版 蒲田行進曲』と書いてあった。  弦はその台本を受け取り表紙をじっと見ていた。  そして 「………隼人」  と今度は一転して、かすれた声でひとこと言って、視線を台本から隼人に移した。  そしてさらに振り絞るように 「俺も…心から…この芝居がしたい…10年ぶりに…お前とこの芝居がしたい…」 と言った。  目には涙が溢れていた。  隼人は陽気に 「あの頃、俺達の夢だったよな~。“つかだ先生”に演出してもらって芝居やるっていうの…あり得ない夢だと思っていたけどなぁ~久し振りにさ、理屈抜きで舞台、楽しもうぜ」  と肩を叩いた。 「おーぉ!何かすげぇワクワクしてきた!よ~し、めちゃくちゃやっちまおうぜ!」  涙と鼻水を拭きながら、弦は笑顔で答えた。
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