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―東京都下北沢。
誰が決めた訳でもなく、芝居をかじった劇団員や音楽をやっている若者が多く住んでいる。
小さな劇場がいくつもあり、毎日何かしら上演されている。
正に芸術家のサンクチュアリ。
混沌としていながらもダイヤの原石が埋もれていそうな雰囲気がこの街を聖地と言わせる所以だ。
弦はこの街に住んでいた。
芝居だけでは生活出来るはずもなく、朝に劇団の稽古場に顔出してコンビニのバイト先へ向かうという毎日の繰り返しだった。
この日も起きがけのコーヒーとタバコを吸いながらボーッとしていた。
―ピンポーン♪
突然チャイムが鳴った。
「……」
弦は返事をせず居留守を決め込もうとしていた。
―ドン、ドン、ドン!
今度はドアを叩く…。
「何だよ…ったく。朝っぱらから、うっせーな、」
仕方なく重い腰を上げ玄関のドアを開けた。
「おはよう~!弦。起きてたか!」
そこには隼人が立っていた。
「何~んだ、隼人か…」
「何~んだはないだろ…」
「セールスやら勧誘やら、やたら多いからさぁ…まあ散らかってっけど上がれよ」
そう言って万年床の布団を急いで丸め、隼人を部屋へ招き入れた。
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