ある喫茶店の風景

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落ち着いた午後、日差しは暖かく風は冷たい。 陽の光を得ようと、テラス側の席につく。 見えるのは、吹き飛ばされそうな程に靡くスプリングコートを押さえながら足早に過ぎ去る通行人。どこにでもある風景。   銀の凹面に鈍く映る景色は、目まぐるしく移り変わる。 スプーンをペン回しの要領で弄りつつ、耳は隣の喧騒へと傾けられた。掻い摘んで要約すると   「だからさ、俺の漬物をこの店に置いてみろって!」   漬物だった。   端からギアをオーバートップあたりにしたような話を展開するのは友人、灰橋ユージ。ただ今より全力で他人のフリを敢行しようと思案するが、これでも一応腐れ縁とも呼べる仲だ。   「ふざけるな! 何が悲しくてお腹にやさしいデザート系喫茶に和朝食テイスト盛り込むんだよ」   対するは「~お腹にやさしい喫茶デザート専門店~ブルガリ屋」を経営するショウさん。喧嘩は強いが胃腸が弱い、それでも地元では少し名の知れ(痴れ?)た元ヤンだ。   「あぁ?! 植物性乳酸菌なめんな! この腐れヨーグルト頭が」   話題はどうあれ、その経歴を前にしても臆さず進む、ユージの常時ゴウアヘッドな精神は称賛すべきか。   「おっと危ない、他人に撤さないと」   恥の文化、慎みを美徳とする素晴らしさに思いをはせながら、空になった器に目を向け、そして視線を伏せた。 スプーンを弄ぶ指が、ふと止まる。 どこか清涼感の漂うガラス細工の装飾を、銀の凹面が捉えていた。
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