16人が本棚に入れています
本棚に追加
岸川が、驚いたように椅子から立ち上がると、奥へと入っていった。
いやいや、さっき名前書いたよね?
わかって当たり前だろ。
岸川も緊張してたのかな?
「ねぇ、一ノ瀬君?」
不意に、柊から話しかけられる。
「…なに?」
無愛想に返事をする。
「うんとね。
あのさ?
一ノ瀬君の事、名前で呼んじゃダメかな?
翔子ちゃんから聞いたんだけど、自分の名前が嫌いなんだよね?
あずさは、格好いい名前だと思うから呼びたいな、なんて。
一ノ瀬君が気になるの。」
柊は顔を真っ赤にして、うつむいている。
僕は、少し考えて
「……ゴメン。
嫌なものは嫌なんだ。
急に言われても、ちょっとね。」
翔子も余計なことを。
と言うか、何故気になる?
僕のことを好きなのか?
まさかね。
翔子から話を聞いて、同情しているだけだろう。
柊は、かなり落ち込んでるみたいだ。
「一ノ瀬?
あずさ泣かせたら、タダじゃおかないわよ?」
僕の横で、翔子が指を鳴らして立ち上がる。
冷や汗が流れる。
翔子は空手の段持ちだったはず!
理不尽な!
だいたい、翔子が僕の話をしなければ……
「翔子ちゃん!
いいの!
考えたら、まともに話すのは、今日が初めてなのよね。
これから、頑張って仲良くなってみせるね♪」
柊がそう言うと、翔子は大人しく椅子に座った。
助かった。
「ひいらぎサン。」
柊が呼ばれたが、岸川は?
「あっ!
そういえば、占い終わったら、そのまま裏から出るって言ってたよ!
あずさ行ってくるね♪」
少しこの場が気まずかったのか、足早に奥に入っていった。
柊が中に入ってから、すぐに翔子が話しかけてきた。
「…ゆき?
あんた、そろそろその性格直らないの?
勝手に話したのは、悪かったけどさ。」
僕はこの話題が大嫌いだ。
この話題どころか、話しをするのもあまり好きではない。
いい加減、ほっといて欲しい。
今の世の中、話しをしなくても生きて行ける。
便利になったもんだ。
「なるようになるさ。」
僕の適当な返事に、翔子はため息をついた。
何故か翔子は、僕と二人になると頻繁に話しかけてくる。
その後も、翔子は色々話しかけてきたが、相づちをうつなどしてスルーしていた。
「まきサン。」
翔子の順番がきた。
「……やっぱり、キッカケがないと性格直らないものなのかな……?
それじゃ行ってくるね!」
翔子が中に入って、一人になる。
最初のコメントを投稿しよう!