占い師

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岸川が、驚いたように椅子から立ち上がると、奥へと入っていった。 いやいや、さっき名前書いたよね? わかって当たり前だろ。 岸川も緊張してたのかな? 「ねぇ、一ノ瀬君?」 不意に、柊から話しかけられる。 「…なに?」 無愛想に返事をする。 「うんとね。 あのさ? 一ノ瀬君の事、名前で呼んじゃダメかな? 翔子ちゃんから聞いたんだけど、自分の名前が嫌いなんだよね? あずさは、格好いい名前だと思うから呼びたいな、なんて。 一ノ瀬君が気になるの。」 柊は顔を真っ赤にして、うつむいている。 僕は、少し考えて 「……ゴメン。 嫌なものは嫌なんだ。 急に言われても、ちょっとね。」 翔子も余計なことを。 と言うか、何故気になる? 僕のことを好きなのか? まさかね。 翔子から話を聞いて、同情しているだけだろう。 柊は、かなり落ち込んでるみたいだ。 「一ノ瀬? あずさ泣かせたら、タダじゃおかないわよ?」 僕の横で、翔子が指を鳴らして立ち上がる。 冷や汗が流れる。 翔子は空手の段持ちだったはず! 理不尽な! だいたい、翔子が僕の話をしなければ…… 「翔子ちゃん! いいの! 考えたら、まともに話すのは、今日が初めてなのよね。 これから、頑張って仲良くなってみせるね♪」 柊がそう言うと、翔子は大人しく椅子に座った。 助かった。 「ひいらぎサン。」 柊が呼ばれたが、岸川は? 「あっ! そういえば、占い終わったら、そのまま裏から出るって言ってたよ! あずさ行ってくるね♪」 少しこの場が気まずかったのか、足早に奥に入っていった。 柊が中に入ってから、すぐに翔子が話しかけてきた。 「…ゆき? あんた、そろそろその性格直らないの? 勝手に話したのは、悪かったけどさ。」 僕はこの話題が大嫌いだ。 この話題どころか、話しをするのもあまり好きではない。 いい加減、ほっといて欲しい。 今の世の中、話しをしなくても生きて行ける。 便利になったもんだ。 「なるようになるさ。」 僕の適当な返事に、翔子はため息をついた。 何故か翔子は、僕と二人になると頻繁に話しかけてくる。 その後も、翔子は色々話しかけてきたが、相づちをうつなどしてスルーしていた。 「まきサン。」 翔子の順番がきた。 「……やっぱり、キッカケがないと性格直らないものなのかな……? それじゃ行ってくるね!」 翔子が中に入って、一人になる。
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