忘れ物

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これは友達の話なんだけどね。 そいつは、昔は音楽を作りたいだとか、歌をうたいたいだとかの夢があったんだけどね。 今はそんなこともなく、就職も目前だしね、安定した仕事につきたいとか、そんなことを考えながらだらだら過ごしてる、そんな大学生。 まあ、ようするに普通の大学生ってことだよね。 で、そいつからこんな話を聞いたわけよ。 まわりではもう内定が決まっただとか、大学院に行くことにしたとか、そんな話がちらほら出始めた。 俺はといえば昔はいろんな夢も見たけど、成長するにつれて、夢もちっちゃくなり、音楽で生きたいって言ってたこともはるか昔で、今となっては楽で稼げる仕事につきたいとか、女の子と遊びたいとか、そんなことを考えながら、日々を送ってるだけで。 まあ、大学生ってみんなそんなものでしょう? 今日もいつも通りに内定もらうために、スーツ姿でそのへんのサラリーマンといっしょに電車につめこまれに行ってたんだよね。 で、ふと駅のすみっこにある掲示板に目がとまったんだ。 古い駅にあるような、伝言や忘れ物をチョークでかけるようになってるやつ。 あれ、こんなのここにあったかなって思うような、そんな希薄な存在感なんだけど、たまたま目についてしまったんだよね。 他の人たちは気づかないのか、気づいてもどうでもいいのか、誰も見向きもしてないんだけどね。 その掲示板には音符がひとつだけ書いてあったんだ。 行を5線にみたててるのかな。 とりあえずその時は誰かの落書きかなと思って、すぐに忘れて電車に乗り込んだんだけど。 面接はどうだったかって?うん、それはもう俺のマシンガントークが連射されたよね。悪い方向に。
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